こんにちはSATOです。
今回は映画「落下の解剖学」について筆者が3つのテーマで考察を行います。
映画「落下の解剖学」はジュスティーヌ・トリエ監督による2023年のフランスの法廷・スリラー映画。
この映画は、雪山で起きた転落死事件をきっかけに、視覚障害の息子が真実と家族の秘密に迫るストーリーです。
真実が見えにくい中、彼らはどのように立ち向かっていくのか?
それでは、本文へどうぞ。
映画「落下の解剖学」のあらすじ
雪深い山荘で起きた転落死。
真実は、深い霧の中に隠されていました。
視覚障害を持つ11歳の息子アベルはある日、雪深い人里離れた山荘で父親の転落死体を発見します。
事故死と思われた事件でしたが、捜査が進むにつれ不審な点の数々が浮かび上がっていく。
夫サミュエルは著名な登山家で、妻サンドラはベストセラー作家。
一見完璧に見えた夫婦関係にも次第に亀裂が生じ始めることに。
警察の疑いの目は、次第にサンドラに向けられていきます。
唯一の目撃者であるアベルは、父親と妻の間に何があったのか何も知りませんが、彼は持ち前の鋭い感覚と記憶力を使って、真相に迫ろうとします。
そして、事件は予想外の展開を見せます。
アベルの証言、事件現場の状況、そして関係者の秘密が徐々に明らかになっていき、真実が明らかになるにつれ、誰もが抱えていた秘密と葛藤が浮き彫りになっていく。
愛と憎悪、真実と虚構。深い霧に包まれた事件の真相は、一体何なのか?
この映画は、サスペンスでありながら、人間の心理を深く掘り下げた作品でもあります。
登場人物たちの複雑な感情と、事件の真相が徐々に明らかになっていく過程は、見る者を最後まで飽きさせません。
映画「落下の解剖学」を筆者が3つのテーマで考察
テーマ1:「事実」と「物語」
この作品の「事故か、自殺か、殺人かー」というキャッチコピーにもあるように、人体解剖学を元にしたクライムサスペンスのような雰囲気が漂っていますが、結局この事件の真実が明かされることはありませんでした。
雪山にすむ男がどのようにして落下したのか?
という「事実」にフォーカスするのではなく、その事件が起きた経緯に焦点が当てられます。
事実はわからないため検察側も弁護側もその事象に至る「物語」をぶつけ合うことになります。
夫は口論がきっかけで妻に殺されてしまったのか?
それとも関係性に疲れて自殺してしまったのか?
どちらが真実なのかは非常に「見えにくく」、そのため裁判長はこれらの物語を判断して判決を下さなければなりません。
そこで裁判長が拠り所としたのは夫婦の息子であるダニエルの主張でした。
視覚障害により世の中が「見えにくい」状態で生きてきた彼が、決して見ることのできない真実に立ち向かっていく姿が裁判長の判断に大きく影響したと考えられます。
「事実」が見えにくい、もしくは存在しない場合、私たちは拠り所として「物語」をどう見るべきか?
そんなメッセージがこめられていたのではないかと筆者は考えます。
テーマ2:本当に落下したもの
この物語では2つの意味で「落下」という言葉が表現されています。
1つは夫のサミュエルの転落事件による落下。
そして2つめは夫婦関係の落下です。
夫の「落下」の瞬間についてはその真実は描かれておらず、そこに至るまでの夫婦間の関係の「落下」がメインとして描かれています。
夫婦関係の歪みが日に日に大きくなり、ついにその日に限界がきてしまった…
日常的に存在する人間の問題と、それらが積み重なって引き起こされ得る悲劇について、解像度が高く描かれていました。
普段の何気ない会話、振る舞いが大きな落下を招いてしまうという教訓があるように思えますね。
テーマ3:私たちは傍観者
今作では、作品と視聴者との距離感が重要な要素となっています。
映画は家族のことについて解像度が低い状態から始まって、中盤あたりから法廷でさまざまな証拠が集まり物語が動き出していきます。
物語が進まない序盤では口コミにもある通り展開の遅さに退屈し寝落ちしてしまう人がいたようです。
事件そのものが公開された時には多くの人が興味を持つものの、真実が明らかにならず事件から自然と離れていってしまうというシチュエーションを映画館で再現しているように感じました。
実際に映画ではサミュエルが実際に落下したシーンは描かれず、口論のシーンや裁判のシーンでも誰かの視点のみにフォーカスを当てるといったこともされていません。
裁判物や探偵物のように、真実を一体となって追い求めるのではなく、あくまで傍観者としてこの世界観を報道番組を見るように外側から観察させようというように撮影されていました。
映画の物語と視聴者の距離感こそがこの映画の面白いポイントだと筆者は感じました。
まとめ
今回は映画「落下の解剖学」について考察しました。
事件に至るまでの物語を傍観者視点から見る、斬新な映画でしたね。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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